2020/06/02
10年以上のローンはだめです という有名なブログ記事があります。
読んでみましたが、50年の住宅ローンの批判から始まり、最終的には10年以内の住宅ローンにしましょうとの結論です。
これは暴論。
ファイナンシャルの知識がないのもいいとこです。
分不相応な住宅を買うな!という主張は正論です。
現在の貸出金額の増加、共働きによる住宅ローン2本立て等で、本来その人たちが買うべき住宅をはるかに超えた住宅を購入で来てしまう仕組みになっています。これにはまると借金地獄に陥るのは必定です。
ただし、だからと言って10年以内のローンにしなさいというのは論理が飛躍しています。
35年の住宅ローンを組んでも、分相応の住宅をリスクを回避しつつ購入することであれば可能です。
不動産と金融の専門家の立場から書いていきます。
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Contents
①35年も先の将来なんて誰にも分らない
35年ローンを組んで、その間に何が起こるか。それは誰にも分りません。事故で死ぬかもしれないし、離婚するかもしれない。失業するかもしれないし、病気で再起不能になるかもしれない。住宅価格が崩壊するかもしれないし、なんなら北朝鮮が核ミサイルを撃ち込んでくるかもしれません。
それは誰にも分りません。そんな35年後の不確定リスクの話を持ち出すなら、住宅購入どころか結婚も就職も何もできません。
ただ、死亡や高度障害リスクは団体信用生命保険でカバーが可能です。
離婚や失業、病気による再起不能リスクは、住宅を売却できる余裕を作っておくこと(オーバーローンを回避すること)でカバーが可能です。
住宅価格の崩壊リスクは大いにありますが、かといって価値がいきなりゼロにはなりません。今後日本の人口が減るとはいえ人間がゼロになることはなく、必ず住む場所、働く場所が必要です。よほどの田舎、僻地でない限り、土地の価値は下落するとはいえ残ります。
核ミサイルが撃ち込まれたら、それはどうしようもありません。米国のICBMミニットマンの射程距離は1万km超だそうなので、正直地球上のほぼすべての場所にそのリスクはあります。
結論としては35年間の長期にわたるリスクは、相当程度コントロール可能なリスクです。
②利子総額1,200万円をもったいないという主張は空虚
3000万円を35年住宅ローンで返済すると、利子総額が1200万円だと書いています。それがもったいないと。
利子はそんなに高くないから
記事を書いた当初は2%で計算しているのでしょうけれども、今は変動金利で0.625%です。利子合計は35年間で340万円です。1200万円もしませんよ。盛りすぎです。
初年度からゴリゴリ元本が減っていきます。
住宅ローン減税があるから
住宅ローン減税制度があります。年収500万円くらいのサラリーマンでも、10年間で200万円程度の税還付、税控除が受けられます。事実上の利子補給制度です。
けっこう古い制度ですけどね。
じゃあ賃料はもったいなくないのか
家を購入しないなら、もしくは家を現金で一括購入するなら、それを貯める間は賃貸住まいになりますが、その賃料はもったいなくないのか、という話です。
賃料は家主の収入です。借り手はただ払うだけです。利子はもったいなくて、賃料はもったいなくないのかよと。都合の悪いところは記載がありません。
Ⅳ抵当権設定登記費用と保証料はかかるよ
ただし、住宅ローンを組むと抵当権設定登記の費用(登録免許税)と、金融機関提携の保証会社の保証料がかかります。
抵当権設定登記の登録免許税は借入額の0.4%なので3000万円の借り入れなら12万円程度。司法書士に頼むと+8万円程度。
保証会社の保証料(ネット銀行だと事務手数料)は100万円あたり21,600円程度なので648,000円程度
はかかります。
超低金利の超長期融資はいい借金だから
35年で0.625%の融資なんてまずありません。
たとえばカードローンやキャッシングは1.7%~17.8%。最長でも72回払い(6年)です。
0.625%の超低金利で35年の超長期融資なんて、とてもいい借金ですよ。
それを10年にしろというのは頭悪すぎです。
たしかに計算上は10年にすれば利子総額は減りますよ。でももちろん毎月の返済額も増えますからね。
35年ローンにして余裕ができたら繰り上げ返済してペースアップは可能ですが、10年ローンにしてきつくなったからペースダウンしたいというのは普通通りません。
③現金一括購入できる人はそうそういないから
そりゃあ理想は現金一括購入です。
しかし、住宅の販売現場にいるとわかりますけど、住宅ローンを組まない人なんて10人に1人もいません。
普通の人はある程度頭金を貯めたら、ローンで家を買うんです。
利子はもったいないといいますけど、30代で3000万円の住宅用の現金を持っている人なんでまずいません。
普通に生活していたら金は貯まりませんからね。貯金できて200~500万円の頭金レベルでしょう。
現金一括購入できる人は実業家か、自営業者か、買い替えの高齢者か、貯蓄好きの人くらいです。何度も言いますけど普通のサラリーマンで現金一括購入はまずいません。
④分不相応な住宅購入だけはやめろ
ただ、この記事の通り、分不相応な住宅購入だけはやめてください。破滅します。
30歳の小無し夫婦で、どちらも総合職だと世帯年収1000万円近くあります。
理論上は2人でそれぞれ住宅ローンを組めば8000万円くらいは組めます。
毎月の返済は21万円です。
金利上昇、妊娠出産、リストラや倒産などが発生した瞬間破滅します。
2~3割価格は落ちますので、買い手がついて住宅を処分できたとしても1人1000万円ずつの負債が残ります。
こういう住宅ローンの組み方は銀行と不動産屋の思うつぼであり破滅するだけなのでやめてください。
⑤キャッチ―なフレーズに惑わされず自分の頭で考えよう
住宅購入は人生の一大イベントです。
住宅ローンは遣い方によっては素晴らしい制度ですし、一方で破滅に導く制度でもあります。
ただそれは、遣い方次第です。
ネットの世界の情報は玉石混交です。煽動的な記事に惑わされず、自分の頭でしっかり考えてよりよい人生を作っていきましょう。
コメント
[…] 前記事の続きです。 […]
by 頭金貯めてる間の家賃がもったいない。2割貯めたら買ってしまえ。 – もちどらどっとこむ 2017年5月2日 10:22 PM
[…] 有名なのはちきりんさんで、それに対する反論は以前触れましたけど、 […]
by 35年の住宅ローンをディスってる人は無知かサラリーマンへの嫉妬だと思う – もちどらどっとこむ 2017年6月28日 6:50 AM
そもそもオーバーローンを回避できるような準備ができない人が多いということがちきりん氏の論の前提なのでは?
by Neko 2018年1月2日 9:21 PM
Neko様コメントありがとうございます。
オーバーローンを回避できない人が多いというのはその通りですね。
我々不動産業者も、お客様の信用枠いっぱい(どころかワンクラスターアップさえ狙って)売りつけ、
あとは生活が破たんしようがどうしようが知らんぷり、というスタンスも反省しなければなりません。
バカとはさみは使いようという言葉通り、
消費者サイドとしては、解決策はローンを組まないという短絡的なものだけでなく、
できるだけファイナンシャルリテラシーを身に着けて、
住宅ローン制度を賢く上手に使うことも重要です。
by mochidra 2018年1月6日 9:57 AM